精密板バネ加工のプロが語る!「微細・複雑」な部品製造の裏側
キョーワハーツの坂本留実です。
パソコンやコネクター、車載電子や医療機器の内部をのぞくと、薄い板を曲げて成形した板バネやスプリング状の部品が数多く使われています。これらの小さな部品は、導通の安定、圧接力の維持、クリック感の創出、振動の吸収、位置決めなど、製品の信頼性を支える重要要素です。とはいえ、こうした部品の製作・加工には、複雑な形状の再現、ミクロン級の精度、材質ごとの特性理解、量産での再現性といった高度な技術が求められます。以下では、微細・精密・複雑な板バネ加工で一般に直面しやすい課題と、それに取り組む際の代表的な考え方を網羅的にまとめます。
挑戦その1:ミクロン単位の精度と複雑な形状
板バネ加工で最初の壁は、肉眼では見えないほどの寸法精度と、複雑な形状の両立です。
・同軸度とワークのズレ: 内径が0.3mm級のパイプ圧入やカーリング加工では、わずかなズレでも必要精度が保てません。金型の案内精度や曲げ順序の工夫が重要になります。
・クリアランスの壁: 板厚0.05mmの部品を加工する場合、パンチとダイのクリアランスが片側2μmといった極小になることがあります。設備の精度管理に加え、温度・潤滑・芯出しなどの微調整が求められます。
・細いスリットとパンチの耐久性: 幅0.3mmのスリットを多数設けるクリップ部品では、薄いパンチの折損リスクを常に考慮します。パンチの先端Rや表面状態、ストリッパー圧の設定などの基本が重要です。こうした点では、金型設計での剛性確保、加工抵抗の低減、歪み抑制といった一般的な対策が有効とされています。
挑戦その2:薄板部品のハンドリングと変形防止
板バネは薄い板材を素材とするため、取り扱い時の影響が形状に現れやすいのが特徴です。
・材料の座屈: 板厚0.06mmのような薄い材質は、わずかな抵抗でも座屈しがちです。送り量やガイド、潤滑条件を整え、安定搬送を図ります。
・排出時の変形: 繊細な形状の部品は、加工後に金型から取り出す際の衝撃で形状が乱れる場合があります。エアーブローの圧力や角度、吸着搬送など、部品の形状に合わせた方法を選定します。
・熱処理工程での歪み: ドラムスプリングなどは、熱処理中の変形を抑えるため、巻き付け時のテンション管理や治具の使い方に注意が必要です。工程ごとに部品へ作用する力を把握し、総合的に最小化する考え方が役立ちます。
挑戦その3:複雑な金型設計と材料特性の理解
高度な板バネ加工では、金型設計と材質の理解が品質を左右します。
・金型の複雑化とコンパクト化: 多工程の曲げ加工を行うと金型は複雑になりがちです。メンテナンス性や交換性を見込んで構成を考えることが求められます。
・材料ロットの変動への対応: 同一の材質でもロットで機械的性質がわずかに変動することがあります。立ち上げ時の確認と角度・荷重の微調整は一般的に行われます。
・スプリングバックの制御: 板バネの曲げでは、材料が元の形状に戻ろうとするスプリングバックが必ず発生します。材質や板厚、曲げRや角度に応じた見込みや補正が重要です。
課題に向き合うための代表的な技術・管理
・精度の追求: 位置決めや案内の高精度化、金型部品の仕上げ精度向上、必要に応じた現場での微調整などで、寸法の安定化を図ります。
・プレス加工の管理: 座屈や反りを抑えるため、金型内抵抗の低減、クリアランスやせん断角の適正化、排出方法の工夫といった基本条件を整えます。
・材料知識の活用: スプリングバックや加工硬化など、材質ごとの傾向に応じた条件設定を行い、仕様に合う製品を目指します。
・試作から量産への展開: 開発初期はレーザー加工やワイヤー放電加工で試作し、量産段階では順送などの方法を検討する、といった段階的な進め方が一般的です。
材質選定と形状に関する基本的な考え方
・電気接点用途: リン青銅やベリリウム銅など、導電性とバネ性の両立が期待される材質が候補になります。
・耐食用途: SUS301やSUS304などのばね用ステンレスは、薄板でも曲げ疲労に一定の強みがあります。
・高荷重用途: ばね鋼(SUP系)や工具鋼(SK系)など、高強度が求められる部品に選択されます。
・軽量・非磁性用途: チタン系材料は、軽量性や非磁性が必要な製品で検討されます。
形状については、必要機能を満たす範囲で曲げ回数を抑え、応力集中を避けるRやスリット配置の検討が行われます。
コスト・リードタイムの考慮
・形状の簡素化: 機能に直結しない曲げや不要な凹凸を削減し、金型構成と段取りを簡素化します。
・材取りと歩留まり: コイル材や板材の取り都合を見直し、材料費の削減を狙います。
・計測と検査: 3次元測定、画像測定、輪郭測定、ばね定数の試験など、適切な検査を配置し、再加工リスクを低減します。
不良予防と信頼性の確保
・バリ・割れの抑制: クリアランスやエッジ形状の設定、材質の繊維方向の考慮などの基本でリスクを下げます。
・反り・ねじれの抑制: 曲げ順序や拘束方法を見直し、必要に応じて応力解放のスリットを設けます。
・導通安定: 表面処理や接触荷重の設計前提を明確にし、使用環境での抵抗変動に備えます。
まとめ
「微細・精密・複雑」な板バネの加工は、機械性能だけでは達成できません。金型設計の技術、薄板のハンドリング、曲げ・抜きの条件設定、材質特性の理解、スプリングバックへの対処、工程全体の管理といった基本の積み重ねが、量産で安定した製品につながります。私たちの身の回りの小さな部品の裏側には、確かな製作と検証の積み重ねがあります。あなたの会社では、製品開発においてどのような精密部品の課題に直面していますか?目標機能、許容差、材質、板厚、数量、希望リードタイムなどを共有いただければ、加工方法や形状の検討をスムーズに進められます。キョーワハーツへのご相談もお待ちしています。
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パソコンやコネクター、車載電子や医療機器の内部をのぞくと、薄い板を曲げて成形した板バネやスプリング状の部品が数多く使われています。これらの小さな部品は、導通の安定、圧接力の維持、クリック感の創出、振動の吸収、位置決めなど、製品の信頼性を支える重要要素です。とはいえ、こうした部品の製作・加工には、複雑な形状の再現、ミクロン級の精度、材質ごとの特性理解、量産での再現性といった高度な技術が求められます。以下では、微細・精密・複雑な板バネ加工で一般に直面しやすい課題と、それに取り組む際の代表的な考え方を網羅的にまとめます。
挑戦その1:ミクロン単位の精度と複雑な形状
板バネ加工で最初の壁は、肉眼では見えないほどの寸法精度と、複雑な形状の両立です。
・同軸度とワークのズレ: 内径が0.3mm級のパイプ圧入やカーリング加工では、わずかなズレでも必要精度が保てません。金型の案内精度や曲げ順序の工夫が重要になります。
・クリアランスの壁: 板厚0.05mmの部品を加工する場合、パンチとダイのクリアランスが片側2μmといった極小になることがあります。設備の精度管理に加え、温度・潤滑・芯出しなどの微調整が求められます。
・細いスリットとパンチの耐久性: 幅0.3mmのスリットを多数設けるクリップ部品では、薄いパンチの折損リスクを常に考慮します。パンチの先端Rや表面状態、ストリッパー圧の設定などの基本が重要です。こうした点では、金型設計での剛性確保、加工抵抗の低減、歪み抑制といった一般的な対策が有効とされています。
挑戦その2:薄板部品のハンドリングと変形防止
板バネは薄い板材を素材とするため、取り扱い時の影響が形状に現れやすいのが特徴です。
・材料の座屈: 板厚0.06mmのような薄い材質は、わずかな抵抗でも座屈しがちです。送り量やガイド、潤滑条件を整え、安定搬送を図ります。
・排出時の変形: 繊細な形状の部品は、加工後に金型から取り出す際の衝撃で形状が乱れる場合があります。エアーブローの圧力や角度、吸着搬送など、部品の形状に合わせた方法を選定します。
・熱処理工程での歪み: ドラムスプリングなどは、熱処理中の変形を抑えるため、巻き付け時のテンション管理や治具の使い方に注意が必要です。工程ごとに部品へ作用する力を把握し、総合的に最小化する考え方が役立ちます。
挑戦その3:複雑な金型設計と材料特性の理解
高度な板バネ加工では、金型設計と材質の理解が品質を左右します。
・金型の複雑化とコンパクト化: 多工程の曲げ加工を行うと金型は複雑になりがちです。メンテナンス性や交換性を見込んで構成を考えることが求められます。
・材料ロットの変動への対応: 同一の材質でもロットで機械的性質がわずかに変動することがあります。立ち上げ時の確認と角度・荷重の微調整は一般的に行われます。
・スプリングバックの制御: 板バネの曲げでは、材料が元の形状に戻ろうとするスプリングバックが必ず発生します。材質や板厚、曲げRや角度に応じた見込みや補正が重要です。
課題に向き合うための代表的な技術・管理
・精度の追求: 位置決めや案内の高精度化、金型部品の仕上げ精度向上、必要に応じた現場での微調整などで、寸法の安定化を図ります。
・プレス加工の管理: 座屈や反りを抑えるため、金型内抵抗の低減、クリアランスやせん断角の適正化、排出方法の工夫といった基本条件を整えます。
・材料知識の活用: スプリングバックや加工硬化など、材質ごとの傾向に応じた条件設定を行い、仕様に合う製品を目指します。
・試作から量産への展開: 開発初期はレーザー加工やワイヤー放電加工で試作し、量産段階では順送などの方法を検討する、といった段階的な進め方が一般的です。
材質選定と形状に関する基本的な考え方
・電気接点用途: リン青銅やベリリウム銅など、導電性とバネ性の両立が期待される材質が候補になります。
・耐食用途: SUS301やSUS304などのばね用ステンレスは、薄板でも曲げ疲労に一定の強みがあります。
・高荷重用途: ばね鋼(SUP系)や工具鋼(SK系)など、高強度が求められる部品に選択されます。
・軽量・非磁性用途: チタン系材料は、軽量性や非磁性が必要な製品で検討されます。
形状については、必要機能を満たす範囲で曲げ回数を抑え、応力集中を避けるRやスリット配置の検討が行われます。
コスト・リードタイムの考慮
・形状の簡素化: 機能に直結しない曲げや不要な凹凸を削減し、金型構成と段取りを簡素化します。
・材取りと歩留まり: コイル材や板材の取り都合を見直し、材料費の削減を狙います。
・計測と検査: 3次元測定、画像測定、輪郭測定、ばね定数の試験など、適切な検査を配置し、再加工リスクを低減します。
不良予防と信頼性の確保
・バリ・割れの抑制: クリアランスやエッジ形状の設定、材質の繊維方向の考慮などの基本でリスクを下げます。
・反り・ねじれの抑制: 曲げ順序や拘束方法を見直し、必要に応じて応力解放のスリットを設けます。
・導通安定: 表面処理や接触荷重の設計前提を明確にし、使用環境での抵抗変動に備えます。
まとめ
「微細・精密・複雑」な板バネの加工は、機械性能だけでは達成できません。金型設計の技術、薄板のハンドリング、曲げ・抜きの条件設定、材質特性の理解、スプリングバックへの対処、工程全体の管理といった基本の積み重ねが、量産で安定した製品につながります。私たちの身の回りの小さな部品の裏側には、確かな製作と検証の積み重ねがあります。あなたの会社では、製品開発においてどのような精密部品の課題に直面していますか?目標機能、許容差、材質、板厚、数量、希望リードタイムなどを共有いただければ、加工方法や形状の検討をスムーズに進められます。キョーワハーツへのご相談もお待ちしています。
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